コールドプロセス石けんを選ぶ理由 Vol.1

前回のBlogでは、ラベンダーという一つの香草が持つ歴史や香りの魅力、そしてLMdS – La Manufacture du Siècleの製品づくりとの関わりを、前編・後編の2回にわたりご紹介しました。 南仏の風景や職人たちのまなざしを思い浮かべながら読んでいただければ幸いです。
そして今回からは、LMdSのブランドを語るうえで欠かすことのできない “コールドプロセス石けん” に焦点を当て、2回に分けて深く掘り下げていきたいと思います。 フランスをはじめとしたヨーロッパの伝統と自然の恵みに根ざしたこの製法が、どのようにして肌を優しく包み込み、豊かなスキンケアやバスタイムを演出しているのか、ゆっくりと一緒に紐解いていきましょう。
自然派コスメで注目されるコールドプロセス石けん
フランスではいまもなお、石けん職人やクリエーターたちにより、あえて手間のかかる「コールドプロセス(冷製けん化)」という伝統的な製法が受け継がれています。この方法は、名前の通り熱を加えずにゆっくりと油脂を石けんへと変えていくもの。ひと目にはとてもシンプルに聞こえますが、実はこの「熱を使わない」という工程こそが、天然の植物オイルやハーブ、エッセンシャルオイルが持つ本来の力をそのまま石けんの中に閉じ込める最大の理由なのです。

植物由来の保湿成分や美肌成分、香りの繊細さが失われにくいため、フランスをはじめとしたヨーロッパ各地ではコールドプロセス石けんが、「肌に正直」、または「環境を尊重した選択」として見直され、自然派コスメの分野で大きな支持を集めています。
日本でもここ数年、同じ製法でつくられた石けんが少しずつ広く知られるようになり、本物志向の消費者に選ばれる素晴らしいブランドが増えてきました。 そしてフランスではさらに一歩進んで、コールドプロセスは小規模生産者の知恵と感性、土地の文化を映す「クラフツマンシップの象徴」として幅広い層の消費者に評価されています。
LMdSがこの製法にこだわる理由も、まさにここにあります。私たちが根をおろすプロヴァンスは、古くから良質な植物オイル、ハーブ、花々に恵まれた地域。その恵みを必要以上に手を加えず、自然のまま活かすために、コールドプロセスという選択は欠かせません。熱を使わず、ゆっくりと熟成させることで、ラベンダーやオリーブオイル、シアバターがもつ本来の香りや手ざわりがそのまま素肌を柔らかく包み込む石けんに仕上がります。

このように、LMdSでは、地元プロヴァンス産の質の高い天然素材を大切にし、この伝統的な製法で仕上げることで、素材の持つ自然の恵みを余すことなく石けんに閉じ込めています。こだわりのコールドプロセス石けんは、肌にやさしいのはもちろん、使うたびに南フランスの豊かな自然を感じていただける逸品です。
天然の恵みをやさしく活かし、肌だけでなく環境にも配慮したものづくり。
それこそが、いまのフランスでコールドプロセス石けんが選ばれる最大の理由であり、LMdSが大切にしてきた価値観でもあります。
コールドプロセスとは?—熱を使わずに石けんをつくる
石けんづくりにはさまざまな方法がありますが、フランスの自然派石けん職人やクリエーターが大切にしているのが、「コールドプロセス(冷製けん化)」という昔ながらの製法です。その名の通り、熱を使わず、常温または低温でゆっくりと石けんをつくる方法で、現在の自然派コスメシーンでは改めて大きな注目を集めています。
コールドプロセスの基本は、とてもシンプルです。
植物オイルやシアバターなどの油脂に、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)というアルカリを加えて混ぜ合わせ、自然の温度のまま反応させていきます。 この反応こそが 「けん化(フランス語ではsaponification-サポニフィカシオン)」 と呼ばれるもので、油脂の脂肪酸とアルカリが結びつくことで、石けんとグリセリンが生まれます。

コールドプロセス石けんの製造過程では、油脂とアルカリの化学反応であるけん化が自然の温度でゆっくり進みます。この反応で生成されるグリセリンは、植物由来の自然な保湿成分であり、石けんの中にそのまま残るのが特徴です。
一方で、工業的なホットプロセス製法は90℃以上の高温で短時間に反応を進め効率的な大量生産が可能ですが、その過程で植物オイルの繊細な美肌成分や香りが失われやすくなります。コールドプロセスでは約40℃前後の低温で、4〜6週間かけてじっくり熟成させるため、植物オイル本来の美容成分や香りを損なわず、自然に生成したグリセリンとともに、しっとりとした洗い上がりの石けんができあがるのです。

この時間をかける工程こそが、手づくり石けんならではの魅力で、フランスの石けんクリエーターやブランドがこの製法を守り続ける理由でもあります。
手間がかかる一方で、肌にも環境にもやさしい。そんな静かな贅沢とも言えるクラフツマンシップが、コールドプロセス石けんなのです。
古代から続く石けんづくりの知恵
石けんづくりは実は人類最古のコスメ技術の一つです。その起源は古く、紀元前2800年ごろのメソポタミア文明ではすでに、油脂とアルカリを混ぜ合わせることで洗浄効果のある物質を作っていたと記録されています。シュメール人やバビロニア人、エジプト人が使っていたこの技術は、木の灰から得られるアルカリ成分と動物性脂肪を混ぜて石けんを作る手法でした。これはまさに、現代のコールドプロセス製法の原型ともいえるものです。

やがてこの製法はケルト人やガリア人を通じてヨーロッパ各地に伝わり、特にオリーブの産地として知られる地中海沿岸で職人の手によって大きく発展しました。マルセイユ、アレッポ、サヴォナといった名産地が生まれ、中世から近代にかけて石けんは衛生用品としてだけでなく、医学的用途を持つ貴重な生活必需品として重宝されるようになります。こうして受け継がれてきた伝統の石けん文化は、数百年にわたり暮らしの中に深く根付いてきました。
この「油脂 × アルカリ × 自然な反応」というシンプルでありながら奥深い知恵は、現代の自然派ブランドにも受け継がれています。余計な熱を加えず、素材が持つ力をできる限りそのまま残すという考え方は、古代から続く英知そのもの。コールドプロセス石けんが「クラフト文化」としてヨーロッパ各地で再評価されている背景には、こうした歴史的価値があるのです。

私たちも、LMdSの石けんづくりとして、こうした古代から受け継がれてきた知恵の延長線上にあるよう常に意識しています。そして、地元プロヴァンスに息づく豊かな植物オイルを主役に、手作業による繊細な温度管理と丁寧な攪拌を欠かすことなく、天然素材や石けん本来の力を余すことなく引き出すことを大切にしています。
長い時間をかけてゆっくりと熟成させるその工程は、真の自然派コスメとして多くのユーザーに愛されています。
だからこそ、肌にやさしく豊かな潤いを与え、植物そのものが持つ香り・美肌成分をそのまま閉じ込めた、現代の暮らしに寄り添う意味のある石けんへと仕上がるのです。
製法の仕組みと職人の手仕事
コールドプロセス石けんの製造工程は、一見するととてもシンプルです。しかしそのシンプルさゆえ、素材の品質や作り手の細やかな感覚が仕上がりを大きく左右します。
まず、厳選した植物オイルやバター、水、苛性ソーダ(アルカリ)を常温(または低温)で丁寧にブレンドします。温度が高すぎても低すぎても反応が乱れてしまうため、ここでは「数度の誤差」を見極める職人の経験が欠かせません。

ブレンドした生地は滑らかに整えられ、木枠やシリコン型に流し入れ、静かに休ませる段階へ。外から熱を加えないため、生地はゆっくりと発熱しながらけん化反応を進め、数日かけて固まり始めます。このあいだも職人は温度や質感の移り変わりを見守り、余計な振動や急激な温度変化が起きないよう細心の注意を払います。
固まった石けんは型から外され、切り分けられたのち、約4〜6週間の“熟成(キュアリング)期間”へと進みます。この時間こそが、コールドプロセス石けんの品質を決定づける最も重要な工程です。余分なアルカリが自然にゆっくりと中和され、石けんはやわらかい状態から、しっかりとした硬さ・安定した品質へ変化していきます。
この熟成中、植物オイルや天然のエッセンシャルオイル、エキスなどの繊細な香りが落ち着き、深みのあるナチュラルアロマに育っていくのも魅力の一つです。人工的な香料とは異なる、天然素材ならではのまろやかな香りが生まれるのは、この長い熟成の時間があってこそ。
コールドプロセス石けんは、原料を混ぜて型に流し込むだけのシンプルな作業のように見えますが、環境や季節の変化に合わせた微調整が品質を左右するので、実際には温度・攪拌・タイミング・熟成環境などを細かく見極める、まさに「匠な職人の手仕事」が求められます。
これらの工程をご覧いただくとお気づきのように、見た目こそ似ていても、生産ライン上で加熱処理され機械によって美しく成形される石けんと、少々武骨な仕上がりでも天然由来の素材だけを用いてコールドプロセス製法により丁寧に手作業で仕上げられる石けんとでは、その本質は大きく異なります。
そして、LMdSが大切に受け継いできたこの製法だからこそ、素材の恵みをそのまま感じられる、「まるでスキンケアのような石けん」が生まれるのです。
LMdSではこの伝統的な手法を真摯に実践し、地元プロヴァンスの天然素材が持つ力を損なうことなく引き出すため、すべての工程において丁寧さと時間を惜しまずに取り組んでいます。こうしてじっくり時間をかけて育てられた石けんは、肌に優しい滑らかな洗浄感と奥深い香りを実現し、ヨーロッパで多くのユーザーの支持を得ています。
コールドプロセス石けんが育む文化と価値観
フランスでは、コールドプロセス製法を手がけるブランドは単に石けんやスキンケア製品をつくるだけではなく、自然環境と暮らしの調和を大切にする文化の担い手として存在しています。低温で、時間をかけ、余計なものを加えずに仕上げるこの製法は、彼らの「自然の恵みをそのまま届けたい」という思想の延長にあります。

使用される植物オイルやバターは、多くがオーガニック認証を受けたものや、地元の生産者から調達される地産原料。それは単なる原料選びではなく、土壌・生物多様性・地域経済への配慮を含む、倫理的(エシカル)な選択でもあります。こうした原料へのこだわりは、匠な石けん職人やクリエーターたち自身の信念と、フランスのエコロジー意識の高さが反映されたものです。
さらに、コールドプロセス石けんは、フランス国内においてサステナブルクラフト(持続可能な手工芸)として位置づけられることも珍しくありません。
- 地域でつくられ、地域で雇用を生む
- 原料ロスや廃棄物を最小限に抑える「ゼロ・ウェイスト」の姿勢
- 大量生産ではなく、必要な分だけ丁寧につくる生産哲学
こうした取り組みは、環境負荷の軽減、地域社会の活性化、手仕事の価値を次世代へ伝える文化的な動きとして、フランスをはじめヨーロッパの各国で一定の支持を集めています。

コールドプロセス石けんを選ぶという行為は、単に「肌にやさしい石けんを使う」という選択だけでなく、自然・地域・職人の営みに寄り添うライフスタイルを選ぶことでもあります。時間をかけてつくられる石けんが、使う人の暮らしのリズムにもやさしく溶け込んでいく──そんな文化と価値観が、この小さなプロヴァンス発の石けんには宿っているのです。
少し長くなってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございます。
今回ご紹介したように、コールドプロセス石けんは自然の恵みを余すことなく活かすために、古代から受け継がれる伝統の製法と匠な職人の繊細な手仕事によって生み出されています。その背景には、環境と調和しながら豊かなスキンケア効果を実現するという確固たる価値観が息づいています。
次回のVol.2では、さらに一歩踏み込み、環境に優しく、節約にもつながる多機能性、そして全ての肌タイプに寄り添うやさしさについて掘り下げていきます。また、エシカルなモノづくりとして動物実験や動物性脂肪を使わない取り組みや、使いやすさと心地いい香りにも焦点を当ててまいります。どうぞご期待ください。


