プロヴァンスの象徴 - ラベンダー Vol.1

プロヴァンスの象徴であるラベンダーは、何千年もの昔からその治療効果を活かして利用されてきました。収穫の時期は年にもよりますが7月の上旬くらいで、ここプロヴァンスでは美しい紫色の畑が果てしなく広がります。ミツバチやさまざまな昆虫たちが飛び交っていて、近づくのは難しいほどです!

古代エジプト人はすでにラベンダーを葬儀の儀式に用いていて、古代ギリシャ人は化粧品の原料として使用していました。その後ローマ人がこの植物をローマ帝国全土に広め、ディオスコリデスやプリニウス(プリニウス・ザ・エルダー)は、ラベンダーを植物学の手引書における基準植物の一つとして取り上げました。

中世になると、ヨーロッパにおける自然療法の草分け的存在である聖ヒルデガルト・フォン・ビンゲンが、自身の著作「カウゼ・エト・クーレ(原因と治療)」の中で、ラベンダーについて一章をまるごと割いて解説しています。また、シャルルマーニュ大帝は、この植物を「薬草」として修道院の庭に導入しています。

世界にはおよそ30種のラベンダーが存在し、地中海沿岸地域だけでも7種が確認されており、そのうち3種がフランスに自生しています。とはいえ、この記事でそれらすべてを延々と列挙するつもりはありません(皆さまもお忙しいでしょうから…)。代わりに、アロマテラピーで特によく使われている代表的な種類を簡単にご紹介し、それぞれの特性や使い方をひと目でわかるようにまとめてみたいと思います。

真正ラベンダー(La Lavande Vraie): ファインラベンダー、オフィシナルラベンダー、またはイングリッシュラベンダーとも呼ばれます(学名:Lavandula Vera, Lavandula Angustifolia, または Lavandula Officinalis)。濃い青紫の花は、ブーケにするととても華やかですが、香りは比較的やさしく穏やかです。Lavandula Angustifoliaが最も希少とされ、クローン化されたラベンダーが香水業界やアロマセラピーで使用されています。

ラヴァンド・アスピック - La Lavande Aspic (Lavandula Latifolia): シャープで清涼感のある香りと高いカンファー含有量が特徴で、長い茎の先端に淡い紫色の花を穂状に咲かせます。虫刺されや火傷、日焼けなどのケアに利用されてきた歴史があり、南欧を中心に古くから薬用やアロマケアに親しまれてきたラベンダーです。

ラヴァンド・ストエカデ - La Lavande Stoechade (Lavandula Stoechas): 花穂の上部にウサギの耳のような紫色の苞(ほう)が特徴的で、カンファーや樟脳系のシャープな香りがします。個性的な花姿と薬草的な香りが特徴の地中海原産ラベンダー。古代ローマ時代から薬用・芳香用に親しまれ、現在も観賞用として人気があります。

ラヴァンディン(Lavandins): 真正ラベンダーとスパイクラベンダーの自然交雑種として南フランスで誕生したハイブリッド種で、シャープな香りと強い生命力が特徴。エッセンシャルオイルはリフレッシュや抗菌目的に人気があり、フランスを中心に広く栽培・利用されています。

ラヴァンディン・スュペール(Lavandin Super):  フレッシュで強く、ハーブやバルサミコを思わせる清涼感のある花の香りが特徴でラヴァンディンの代表品種です。リラックス効果や鎮静作用がるとされ、アロマ関連はもとより香水業界でも高く評価されています。私たちの石けんの中でも、LMdS - Nice 1954 LVとVénus Impériale-インペリアルヴィーナスで惜しみなく使われています。

ラヴァンディン・グロッソ(Lavandin Grosso): 私たちの地元コート・ダジュールの一角で新種として発見され、挿し木繁殖により交配種として進化、今日ではラバンディン・エッセンシャルオイルの主役級と相成りました。カンファー(樟脳)系のシャープさと清涼感が強く、やや甘さも感じる香りで、アロマやクラフト、化粧品など多用途に利用されています。

ラヴァンディン・アブリアル(Lavandin Abrial):  20世紀前半のフランスでラベンダー産業を支えてくれた歴史的な品種です。悲しくも微生物感染の病害により新しい品種に主役の座を譲りましたが、現在も一部の調香師や愛好家の間で、独特の香りを評価され使われています。

ラベンダーには多くの品種がありますが(※ラヴァンド・ストエカスを除き)、効能はおおむね似ています。多様な品種が生まれた背景には、科学者や化粧品研究者の長年の関心と、農家によるクローンや交配(遺伝子組み換えではありません)による改良努力があります。その結果、観賞用やアロマテラピー用、香水用など、用途に応じてさまざまなラベンダーが私たちの暮らしを彩っています。

話が長くなってしまいましたが、日本のアロマファンの方々やラベンダー愛好家の皆さんには、この気持ち、きっと伝わると信じています!

ここまでご紹介した通り、ラベンダーは単なる美しい花以上の存在です。プロヴァンスの大地に根ざし、古代から人々の生活や健康に寄り添ってきたその歴史には、数多くの物語と努力が隠されています。様々な品種が生まれた背景には、香りや効能の違いを深く理解し、最適な用途に合わせて育ててきた人々の熱い情熱がありました。

そして現代でもなお、その伝統は引き継がれ、特にプロヴァンスの大地では環境に配慮しながらクオリティーの高いラベンダー栽培が盛んです。私たちが日々の暮らしでラベンダー製品を手に取る際、その背景にこんなに豊かな歴史と文化があることをぜひとも思い出していただきたいのです。

次回の後編では、この続きとして「ラベンダーの効能と活用法」、「プロヴァンスにおける品質認証」、「現代のラベンダー栽培の課題と未来」、そして「私たちが提案する日本の皆さまへのラベンダーの楽しみ方」といったテーマにじっくりと触れていく予定です。

ラベンダーの世界は、まだまだ奥深く、知れば知るほど魅了される植物です。どうぞご期待ください!